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きもの草子番外編 〔聴雨庵の魔女〕
その庵のまわりには、いつも雨がふっていました。

灼熱の陽光が照り付ける真夏日にも、氷雪吹きすさぶ真冬日にも、一歩庵の門をくぐった客人はしっとりとした優しい雨音に包まれるのでした。

庵の名を、「聴雨庵(ちょううあん)」といいます。

茶室から雨に濡れる庭を眺めるうち、客人は自分がとても疲れていることに気づきます。
日常のあれやこれやにへとへとに疲れ果てていて、でも今まで自分が疲れていることにも気づかないくらい、いろいろなものに追われ、せわしなく過ごしていたことに気づきます。
雨音はただ静かにカサカサに乾いた心に浸み込んでいきます。


聴雨庵に亭主はいません。
でも、雨音に耳を傾ける客人の前には、いつの間にか白磁の椀に満たされた一服の茶が供されています。

薄手の椀を通じて掌に伝わる茶の湯の温かさと、雨に濡れる庭先の苔の色と同じ、鮮やかな翠緑と、湯気とともに立ち上る抹茶の爽やかな香気。

飲みほすと、じんわりとそれらが体中を巡り、すっかり元気になった客人は庵に礼をして帰っていきます。

聴雨庵には亭主はいませんが、魔女が一人、棲んでいます。

水屋に隣接する半畳にも満たない、狭い板敷きの道具置場で、誰にも気づかれることなくいつもお茶をたてています。

ときどき、「カテキンは免疫がつくのよ」「ビタミンCもとれるんだから」とぶつぶつつぶやきながら、ずっとずっと何百年もの間お茶をたてています。

そうして今日も、雨音にまじる来客の足音を聞き漏らさぬよう、魔女は耳を澄ますのです。

author:mayudama, category:●『きもの草子』, 00:02
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Comment
きもの草子番外編。
昨日の会場http://rensai.tatsunosuke.com/?eid=1259497は本当に「聴雨庵」という名前のお茶室でした。
会場から見えないよう、普段はお膳などを収納している板敷きの せまーい物置部屋で、長時間正座でひたすらお茶を点てている
しーさんを見ていて(魔女のようだ・・・)と思いついた話。
まゆだま, 2008/11/26 12:05 AM









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