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きもの草子八枚め〔朱にまじわれば・・・〕
はい、フラれました。
「つかれた」ってフラれました。

もうつかれたよ…って、お前はネロ少年かっ、パトラッシュと一緒に天に召されてしまえっっ!なんて悪しざまに心の中で罵るのもいい加減むなしくなってきた頃、見計らったかのように女友達から連絡があった。

学生時代からのくされ縁は、友人の失恋を「お、ちょうどよかった」と一言で片付け、「どうせ暇を持て余してるんでしょ」と次の休みに自宅に来るよう呼び出した。

「…ふつーさぁ、逆じゃない?傷心の友人がいたら駆けつけてくるもんじゃない?」
釈然としないまま、それでも律儀に友人宅を訪れて言ったら、
「だってもう別れた男の文句を言えるくらいまでは立ち直ってるじゃない」
さらっと言われた。
「あんたが本当に落ち込んでる時は、絶対に誰にも何も言わないで一人で悶々としてるもん」
「…」
その通り。下手に付き合いが長いとそんなところまで見透かされるからタチが悪い。

もうおしまいかな、と思ったのはたぶんこちらが先だった。言わせるように仕向けたくせに、被害者ヅラで騒いでいたのは心の底にあった変な罪悪感、のようなもの、を減らすためだったりするのかもしれない…なんて自分でもよくわからない気持ちまで見透かされているとは思わないが…

「それで、なんの騒ぎなのこれは…」
数カ月ぶりに訪れた彼女の部屋は、床が見えないほどの色彩の布の氾濫。
「なにって、きもの。急に着てみたくなってさ」
「あのクローゼットいっぱいあったブランド服は?どうしたの?」
「あれを売って、これになった」
「ええーっ」
「まぁ、お聞き。きものは古着ならびっくりするくらい安いのよ。そして洋服だといちいちついてまわっていたお直しも、古着きものだったらジャストサイズ!まさに私たち、ちびっこの為の勝負服!」
…いい年して自分のことをちびっことか言わないでほしい、恥ずかしいから。
「それに今、きものを着られるようになると、これからの紅葉狩り、クリスマス、忘年会、新年会のイベント全部きもので楽しめるのよ!世間様に怒られないコスプレだよ!やらなきゃ損だと思わない?」
「はぁ…」
…なんか怪しげなセミナーに勧誘されてる人みたいになってないですか、私…
「要するに、きものを着て出かけたいから付き合え、と?」
「少しやせたその体に…ってあんまりやせてないけど、似合うきものをさがして街に飛び出せばみんな振り返るよ!」
「余計なお世話だ!」

悪いもんでも食べたんじゃないかってくらいハイテンションの友人と、床に散らばった色とりどりのきものの柄を見ているうちに、なんだか着てみてもいいような気持ちになってきた。
どうせ嫌だって言ったって、着ることになるのだ。だったら楽しんだもん勝ちだろう。
「わかった。で、最初に何を着ればいいの?」
「おっ、やる気になったわね。ではまず、この長襦袢を着るがよい」
「ハイハイ」
彼女の行動が友人を元気づけるため、ではまったくなく、ただただ自分本位なところがいっそすがすがしいよなぁ、と思いながら、燃える紅葉のような、鮮やかな緋色の襦袢に袖を通したのだった。

author:mayudama, category:●『きもの草子』, 22:12
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